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摂津国日下の里に住んでいた日下左衛門の妻は、家が没落したため、夫と別れて京都に上り、高貴な人の家に乳母として奉公するようになりました。三年が過ぎて生活も安定してきたことから、左衛門の妻は、夫の消息を知ろうと、従者を伴って里帰りします。従者は里人に左衛門の消息を尋ねますが、行方知れずになっていました。それでも妻は、しばらく日下の里に留まり、夫を探すことを決意します。 従者は、妻の気持ちを引き立てようと、里人に面白いことはないかと尋ね、当地の浜の市に芦を売りに来る、芦刈の男が面白いという話を聞き出します。浜の市で妻や従者が待っていると、芦刈の男が現れました。芦刈の男は、落魄した身の上を嘆きながらも、芦を刈る風雅さを語ります。その後、芦刈の男は、従者と語り、葦と芦の異名などを紹介した後、有名な和歌を織り込んだ面白い謡を謡いながら、舞を見せます。 妻は従者に、芦刈の男に芦を一本持ってきてもらうよう頼みます。芦売りの男は、妻のもとへ芦を持っていきますが、彼女を見て小屋に隠れてしまいます。実は、芦刈の男は左衛門その人であり、自分の妻だと気づいて、恥ずかしさのあまりに、隠れたのでした。妻は、「今は生活も安定したので迎えに来たのです、姿を見せて」と説得します。そして夫婦はお互いの心情を歌に託して交し合います。左衛門は「今は包み隠すことはない」と小屋を出ます。従者は夫婦再会を祝し、一緒に都へ行くように左衛門に勧めます。左衛門は烏帽子直垂をまとい、和歌の徳を讃えて、喜びの舞を舞い、夫婦は連れ立って春の都へと向かうのでした。